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彼女のトライアル

プリーツ プリーズのある日常


第3回 島へ

第3回 島へ

初夏のある夜。大橋主我は東京・竹芝桟橋を22時30分に出港する大型客船 橘丸に乗り込んだ。初めて訪れる八丈島へ向かう。2泊3日で計画した旅の目的は、短編映画のシナリオハンティングだ。

彼女は以下のような短編映画を構想している。

長年島を離れて暮らしていた主人公が、故郷の島に戻ってくる。日々が過ぎるなかで、かつてよく知っていたはずの島も人々も、そして自分自身も大きく変わってしまったことに気付く。過去と現在の狭間で揺れながら、主人公はこの島での自分のあり方を探しはじめる。

「島で撮影することで、都市とは違う距離感や孤独感を自然に描き出せるのではないかと考えました。小さなコミュニティのあたたかさや独自の文化、土地の人と外から来た人のギャップをより鮮やかに表現できればいいなと」

八丈島は東京都心から南へ約287km離れた太平洋上に位置する伊豆諸島のひとつ。江戸時代には流刑地として知られ、最初の流人は関ヶ原の戦いで敗れた宇喜多秀家だった。

羽田空港からの空路では約50分で到着する島へ、10時間以上をかけて船で向かったのは、当時と違うとはいえ東京との距離感を少しでも感じてみたかったからだ。

翌日8時55分、船は八丈島の底土港(ルビ:そこどこう)に到着した。大橋は船酔いも軽く、早朝からデッキに出て大海原の先に見えてくる島を眺め、旅情をたっぷり味わって島に降り立った。

東京とは異なる豊かな植生に包まれた島を、この旅のために購入したハンディビデオカメラで撮影しながら移動する。映画のためのロケハンもかねているのだ。
彼女はまず、チーズ工房「エンケルとハレ」を営む魚谷孝之さんの牧場を訪ねた。

第3回 島へ

約40頭のジャージー牛が潮風を受けながら牧草を食んでいる。
魚谷さんは2013年に八丈島に移住し、島の植物を牛に与え、その牛乳でモッツァレラなどのフレッシュチーズやヨーグルト、プリンなどを作っている。スタンフォード大学のアーカイブから八丈島の歴史をリサーチするなど研究熱心な彼は、牧場の現状や将来の展望、島の酪農の歴史などを語った。

第3回 島へ

大橋は今回の取材のために、プリーツ プリーズを白いコットンのシャツに重ねてコーディネートした。

「潮の香りを連れてくる強い風。そんな島ならではの気候にちょうどよかったのが、長袖シャツと茶色のトップと黒のボトムスの組み合わせでした。
プリーツ プリーズは、旅先でも私の心強い味方です。合わせる服やアクセサリー次第で、まるで別の1枚のように姿を変えてくれるから、出発前の荷造りも迷いません。
同じ形や色でも、重ね方ひとつで日常にも、ちょっと改まった席にも馴染む。そして何より、小さく畳んでもシワにならないから、どこへでも連れていける。旅の風景に溶け込みつつ自分らしくいられるのが、プリーツ プリーズの大きな魅力のひとつです」

八丈島を知るためには、黄八丈は欠かせない。
この伝統的な絹織物の歴史は平安時代末期まで遡るとも言われ、江戸時代には幕府への年貢として納められていた。黄色・樺色・黒色の3色のみを使い、すべて島に自生する植物からとれる天然染料を用いる。

1879年創業、現在も「染」と「織」を分業せずに一貫して手作業を行っている「めゆ工房」の山下譽さんを訪ねた。
「衣食住、という順番があるように“衣”は人間の尊厳に関わるものだと思います」と言う山下さんは、島での生活や黄八丈の伝統と現在の課題を語り、桃山時代から伝わるという織機で実演もしてくれた。

第3回 島へ

玉石垣は、江戸時代に流人たちが一日の糧を得るために海岸から角の取れた丸い石を一つひとつ運び、伝統的な技法で積み上げたもの。
美しさと機能性が両立した、島を代表する歴史的景観だ。

第3回 島へ

この玉石垣からほど近いところにある「大興園」は観葉植物や鉢物を生産・販売する農園だ。特にフェニックス・ロベレニーの栽培・出荷で知られている。

大橋は園主の菊池國仁さんにインタビューした。
流刑者は島の文化にどんな影響を与えたのか。八丈島に移住する人たちはどんな風に暮らしているのか。島で幸せに生きる秘訣は何か。
菊池さんは質問に詳しく答え、さらに島を代表する民謡「ショメ節」を披露した。

彼女が見たかった風景のひとつ、南原千畳敷海岸。
八丈富士の噴火でできた溶岩台地だ。およそ500メートルにわたってごつごつした黒い岩が広がっている。流された宇喜多秀家が釣りを楽しんだと伝わる荒々しい海岸には、強い風が吹いていた。

スマートフォンをチェックし、翌日から天候が変わることを知った大橋は予定を切り上げ、翌日午後の飛行機の便を予約した。

八丈島からの便は天候による欠航がとても多く、下手をすると東京に戻れなくなってしまう。
後ろ髪をひかれる思いとともに、映画づくりへのたくさんのインスピレーションを得た一日が終わろうとしている。

着るひと:大橋主我
(スタイリングも本人による。アクセサリー、バッグなどの小物はすべて私物)
撮影:原田教正
ヘア&メイクアップ:丸谷美樹
構成:原田環+中山真理|カワイイファクトリー
コンセプト&ディレクション:北村みどり
制作:ISSEY MIYAKE INC.