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Episode 14
2026.03.16

未来に続く農のためのユニフォーム
その姿勢と文化を育むデザイン

トビアス・ペグス(Square Roots USA共同創業者・CEO)
松本 舞氏(Square Roots Japan代表)

Episode 14

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)は2025年、屋内農業プラットフォームを展開する米国の屋内農業会社Square Rootsの日本展開として設立された、東京拠点のSquare Roots Japanのユニフォームを制作しました。高齢化や気候変動といった課題を背景に農業の高度化が進むなか、季節や天候に左右されない屋内農業が関心を集めています。その進化をAIで支えているのが、Square Rootsです。衣服と農業。異なるものづくりの領域にあるA-POC ABLEとSquare Rootsは、どのような価値を共有し、一着のユニフォームへと結実したのか。Square Roots USA共同創業者・CEOのトビアス・ペグス氏、Square Roots Japanの代表を務める松本舞氏との対話から制作プロセスを振り返りました。

食と衣服を通じて、同じストーリーを伝えている

——改めて、まずはSquare Rootsの取り組みについて教えてください。

トビアス・ペグス(以下、トビアス) Square Rootsは屋内農業を行っている組織です。モジュール式の栽培システムと最先端の環境制御技術を備えたラボで、生育環境をリアルタイムに管理、自動調整しています。太陽光や土に依存せずに生産できるため、季節に左右されることなく、年間を通して安定した品質の野菜を育てることができます。雪に覆われるような冬でも生産を続けられる点は、大きな特徴の一つです。

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Square Roots USAファーム内の様子

なぜこの技術が重要なのかといえば、気候変動によって屋外での生産がますます難しくなっているからです。日本でも、夏の気温上昇が続き、農作物の品質や収量を安定的に維持することが難しくなりつつあります。こうした状況のなかで、屋内生産技術を導入することは、日本に限らず、世界的な食料課題への対応にもつながると考えています。

私がSquare Roots Japanのメンバーと出会ったのは、約6年前のことです。当時、日本の農家の方々にお会いするために来日しましたが、その際に強く感じたのは、効率性だけでなく、おいしさや品質に徹底して向き合う、日本の農家の姿勢でした。いわば職人のように、野菜づくりに真摯に取り組んでいる。その姿が、とても印象に残っています。

私たちは、そうした知見や技術をデジタル化し、温度・湿度・光量・栄養バランスなどのデータを収集・分析したうえで、「レシピ」として蓄積しています。これらのデータを活用することで、Square Rootsの施設内でも、同等の品質を安定的に再現することが可能になります。Square Roots Japanが目指しているのは、日本の農家が培ってきた伝統や技術と、気候変動時代に求められるテクノロジーを融合させ、新しい農業のかたちをつくっていくことです。

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Square Roots USA共同創業者・CEOのトビアス・ペグス氏。

松本舞(以下、松本) いつでもどこでも、新鮮で高品質な野菜を生産できる屋内農業施設を実現するためには、農業の知識だけでなく、建築や空調、風や照明に関する技術も必要になってきます。現在私たちは、そうした屋内農業に必要なさまざまな日本の技術を集めて、Square Rootsの生産技術を実証・実装していくための拠点「Agri Tech Lab Tokyo」を立ち上げるための準備をしています。

今まで農家さんの経験に基づいていた栽培のノウハウをレシピとして言語化・数値化していくことで、何もしなければ失われてしまうものを未来にわたって翻訳していく──そうやってSquare Rootsを通じて農家さんたちの知恵を残しながら、東京から日本の食料自給率を上げ、若い世代の農業就職率を上げていくことに、私は魅力を感じています。

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——その「Agri Tech Lab Tokyo」で働くチームが着るユニフォームを、A-POC ABLEに依頼された経緯について教えてください。

松本 食をつくることと、衣服をつくることは、どちらも生活の根幹に関わる営みで、とても近い関係にあると感じています。私たちもA-POC ABLEさんも、テクノロジーを日々の暮らしのもっとも身近な場所に取り入れようとしている点で、考え方が重なっているように感じました。食も衣服も、ステータスとして消費されがちな時代のなかで、A-POC ABLEさんは、着る人の生活や個性に寄り添うものづくりを続けているブランドです。まずはそうした考えや思想に触れることに、大きな意味があると思いました。

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Square Roots Japan代表・松本舞氏。

トビアス 私はもともと、英国のカルチャー誌『i-D』のジャーナリストとして働いていました。当時からイッセイ ミヤケの「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」を知っていたこともあり、今回、A-POC ABLEとの取り組みが実現し、すごくワクワクしました。

普段からA-POC ABLEのジャケットを着ていますが、見た目のスタイリッシュさと同時に、高い機能性と耐久性を備えている点に魅力を感じています。汎用性があり、着心地もよく、さまざまな場面で役立つ一着です。作業用のユニフォームも同様に、重機を扱うための耐久性と、長時間着られる快適さの両方が求められます。ユニフォームにおいても、あらゆる状況に対応できる衣服であることが重要だと考えています。

そして私が何よりも嬉しく思うのは、両者の考え方が似ていること。私たちはともに、新しいテクノロジーと、これまで培われてきた伝統や職人技を、無理なく結びつけようとしています。A-POC ABLEの場合は衣服、Square Rootsの場合は食品を扱っているという違いはありますが、私たちは同じストーリーを伝えようとしているのだと思っています。

宮前義之(以下、宮前) 食と衣服は、ともに人間の生活に欠かせないという点で、共通しています。ただSquare Rootsさんは、単にテクノロジーを生活のなかに取り入れることにとどまらず、農業テクノロジーを通じて社会に新たな価値を生み出していくという、明確なビジョンを持っている。その点が、とても印象的でした。

そのビジョンは、分野こそ異なりますが、A-POC ABLEが一枚の布から新たな価値をつくろうとしている姿勢とも重なっています。だからこそ、私たちとしても、Square Rootsさんが描こうとしている世界を、より深く知りたいと思いました。また、異なる分野の取り組みを間近で見ることは、自分たちにとっても新しい気づきや学びにつながります。そうした好奇心が、今回ご一緒するきっかけになりました。

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A-POC ABLE ISSEY MIYAKE デザイナー・宮前義之。

対話からはじまる服づくり

——制作は、どのようなやりとりから始まったのでしょうか。

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宮前 まずは、詳細なヒアリングからスタートしました。Square Rootsの皆さんが、どのような環境で働いているのか。これまで着てきたユニフォームの、どこに満足し、どこに改善の余地があるのか。そうした課題整理を最初にしました。

そうしたヒアリングをするなかで、トビアスさんと松本さんが「これから農業の世界に入る人たちに、“Square Rootsで働きたい”と思ってもらえる存在でありたい」と話されていたのが印象的でした。そこで、ユニフォームとしての条件を満たし、見た目にも魅力的な、ユニフォームと日常着の中間に位置するような衣服を目指そう、という方向性が固まっていきました。

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複数サイズでパターンの見え方を確認するために制作した、型紙の模型。

その過程では、私たちが普段使用している素材にも触れていただきながら、耐久性、着心地、生産性といった性能面のバランスを慎重に検討していきました。同時に意識していたのは、数字やスペックだけでは測れない部分です。服を着たときに、どんな気持ちになるのか。その一着から、どのような姿勢や意識が立ち上がってくるのか。ユニフォームである以上、機能性は欠かせません。ただ、それだけでは十分ではない。身にまとうことで生まれる文化や、働くことへの向き合い方まで含めてデザインしたい。そうした「まとう」という感覚そのものを、設計の中心に据えていきました。

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A-POC ABLE ISSEY MIYAKE デザインエンジニア・中谷 学。

中谷 学(以下、中谷) 今回、生地づくりにあたっては、さまざまな織り組織のテストを重ねました。黒のタテ糸とグリーンのヨコ糸を使い、平織りや綾織り、朱子織りなどを組み合わせることで、硬さの異なる布をつくっています。密度を上げれば生地はしっかりしますが、その分しわになりやすくなり、作業される方にとって気になる要素にもなりかねない。そうした点を踏まえながら、ちょうどいいバランスを探るために、何十種類もの組織を試作しました。

高橋奈々恵(以下、高橋) 同じ糸を使っていても、組織によって透けたり、透けなかったりするんですよね。そうした違いによって、色の見え方や強度も変わってきます。私たちは、その中から最適な表情や性能をもつ組織を選び出していきました。

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A-POC ABLE ISSEY MIYAKE デザインエンジニア・高橋奈々恵。

中谷 デザインする際に大切にしていたのは、「これはかっこいい」「これはかっこよくない」といった自分自身の固定観念に縛られないことでした。まずは、布の中にできるだけ多くの要素を盛り込んだものをつくる。たとえば、ジャカードによる多様な柄表現を試したり、あえてラインを入れてみたりする。見る人によっては不要に感じられるかもしれませんが、その違和感が、別の誰かにとっては魅力として立ち上がることもあります。そうして、誰かの心にひとつでも引っかかる要素が生まれると、そこから思いがけない方向にアイデアが展開していくことがある。その可能性を信じて、試行錯誤を重ねてきました。

トビアス このストライプのラインを見たとき、私はまず、黄色と黒の注意喚起ラインを思い浮かべました。私たちの農業施設には、細かな安全配慮が必要な場面が多くあります。その意味でも、注意を促すモチーフとして、とてもふさわしいと感じたんです。

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松本 制作プロセスを振り返って、いちばん印象に残っているのは、私たちの声に本当に丁寧に耳を傾けてくださったことです。衣服のデザインは、デザイナーがトップダウンで決めていくものだと思っていたので、ここまで対話を重ねながら進めていただけたのは、良い意味で意外でした。

中谷 つねに対話を重ねながら進められましたよね。たとえば、背中に入るロゴの色も、当初はグリーンがいいと考えていましたが、「ファームのクリーンな雰囲気に合わせたい」というご意見をいただき、最終的には白に決まりました。すべてをこちらで決めるのではなく、みなさんにも判断を委ねながら、一緒につくり上げていけた感覚があります。

もうひとつ印象的だったのは、Square Rootsのみなさんの判断の速さです。打ち合わせをすると、その日のうちに検討すべき仕様のほとんどが決まり、すぐに制作に取りかかることができました。スタートアップならではの決断力があったからこそ、これほどスピーディーにプロジェクトを進められたのだと思います。

宮前 素材については、今回は「TYPE-U」という生地をベースにしています。一般的に、生地はしわが入ってくると、どうしてもネガティブな印象を与え、くたっと見えてしまいがちです。でもこの素材は、柔らかい和紙のように、もまれることで生まれる表情そのものが、テキスタイルとしての魅力になるような糸と織り組織を採用しています。

毎日着るユニフォームである以上、常にスーツのように整った状態を保てる環境ばかりではありません。多少よれたり、しわが生じたりしても、それが「味」や「表情」として成立する。そうした前提に立って、素材設計を行いました。

常に完璧な状態を保ち続けることは、現実的には運営面でも負担が大きい。何年も着続けることを考えたときに、無理なく使い続けられることも、大切な条件だったと思っています。

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——外部とのコラボレーションを通じて、A-POC ABLEは、衣服の可能性そのものを更新してきたように思います。今回のSquare Rootsさんとの取り組みからは、どのような新しい視点や広がりが生まれましたか?

宮前 普段はなかなか向き合うことのない環境や条件を提示していただき、それを一枚の布でどう表現するかを考えるなかで、このユニフォームは生まれました。これは、まさにA-POC ABLEだからこそ実現できたものだと思っています。完成したユニフォームを見ても、一枚の布には、まだまだ大きな可能性が残されている。そのことを、あらためて実感しました。自分たちだけでは到達できなかった領域に踏み込めたこと自体に、このプロジェクトの意義があったのではないかと思います。

高橋 A-POC ABLEでは、常に一枚の布の中に服の情報をすべて組み込み、そこから衣服づくりを始めています。ただ、今回はユニフォームという性質上、さまざまなサイズ展開に対応する必要がありました。

そこで採用したのが、A-POC ABLEらしいものづくりと、一般的なユニフォームの規格化された製法を組み合わせるアプローチです。ロゴが入る背中やポケット部分など、全員で共通する部分と、それ以外の自由度の高い部分を明確に分けることで、前身頃は一着ごとに異なる表情を持ちながら、後ろ身頃は統一感のあるデザインに仕上げています。

すべてを完全に個別で制作すると、どうしてもコストが高くなってしまいます。そうした制約のなかで工夫を重ね、価格を抑えながらも、「一枚の布から生まれるユニフォーム」というA-POC ABLEらしさをかたちにすることができました。

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都市に暮らし、農業に携わるという選択

——今回のユニフォーム制作では、性能を重視しながらも、「未来の農業に参加する意志」を表現したいともお話しされていました。両チームでどのような対話を重ねながら、数値では測れない価値を、最終的なかたちへと落とし込んでいったのでしょうか。

宮前 やはり、こうした対話そのものが重要だと思っています。最終的に大切なのは、完成した「もの」そのものよりも、「一緒につくっていく」という関係性です。そうしたプロセスを経て生まれたものには、関わった人それぞれの想いや考えが、自然と宿っていく。そのストーリーがSquare Rootsさんのなかで語り継がれていけば、このユニフォームを手にする人にも、その背景にある想いは、自然と伝わっていくはずです。

私たちが衣服づくりで大切にしているのも、こうした目に見えない価値が、物語とともに共有されることで、衣服に新しい意味が生まれていくことです。その力を信じながら、日々ものづくりに向き合っています。

今回は限られた時間のなかでのプロジェクトでしたが、密度の高いコミュニケーションを重ねることで、その価値をユニフォームにきちんと落とし込むことができたと感じています。対話は簡単なようでいて、誰とでも成立するものではないもの。お互いに耳を傾けながら、丁寧に言葉を交わし続けられたことが、今回の成果につながったのだと思います。

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トビアス そうしたキャッチボールを積み重ねながら、私たちの業界が何を大切にしているのかを理解し、すぐに対応していただけたことも、嬉しかったですね。たとえば、重要なプロトコルのひとつに害虫管理があります。ジャケットの袖口に折り返しがあると、そこに虫が入り込み、大きな問題につながることがある。最初の提案では袖口に折り返しがありましたが、その理由を説明すると、すぐに重要性を理解していただけました。もちろんファッション性も大切ですが、食の安全という観点から求められる機能性をきちんと理解し、見た目や着心地と両立させたかたちで反映していただけたことを、ありがたく感じています。

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宮前 デザインする上で三宅から受け継ぎ、大切にしていることのひとつが、相手のことをどれだけ想像しながらつくれるか、という点です。もしかすると、それがアートとデザインの違いなのかもしれません。デザインには、つねに相手がいる。だからこそ、「聞く」ことが何より大事になるんですよね。

そういう意味では、「いま、どんなことで困っていますか?」と問いかける医師のような感覚を、いつも意識しているのかもしれません。チームと話すときも、工場の方々と仕事をするときも同じです。周囲の声に耳を傾けていると、「この課題を、どうやってデザインの力で解決できるだろうか」という発想が生まれてくる。その積み重ねが、私たちのものづくりの原動力になっているんだと思います。

——最後に、Square Rootsの今後の展望も含め、松本さんとトビアスさんがこのユニフォームに期待することを教えてください。

松本 東京では、「憧れの職業」として、例えばカフェやアパレルに関わる仕事が語られたりします。一方で、農業は、都市の暮らしから少し切り離された存在として、置かれているようにも思います。Square Roots Japanは、農業をカフェやアパレルと並ぶぐらい魅力的な職業にしていきたいと思っています。そのためにも、このユニフォームを着て働けることには、大きな意味があると感じています。

トビアス 少し数字を挙げると、アメリカで農業に携わる人の平均年齢は58歳、日本では69歳です。さらに日本では、65歳未満は28%にとどまっています。今後、現在の担い手が引退していけば、日本で野菜を育てる人が大きく減ってしまうことになります。

Square Rootsでは、若い人たちに農業に興味をもってもらうために、いくつかのアプローチをとっています。ひとつは、都市に暮らしながら農業に携われる環境を整えること。屋外の厳しい暑さや寒さにさらされることなく、快適な空間で働くことができます。もうひとつは、データサイエンティストのように、テクノロジー分野から農業に関われる仕事の入口を広げることです。

そうした魅力に加えて、今回完成した素晴らしいユニフォームも、私たちが提示できる価値のひとつになります。とくに日本では、素敵なユニフォームを着られる仕事が、若い人たちの憧れにつながりやすい側面もある。私たち自身がこのユニフォームを着て未来の農業をつくっていくことで、「農業はかっこいい仕事だ」というイメージを広げていきたいと考えています。それがやがて、食料問題という大きな課題の解決にもつながっていく。その可能性を、私たちは信じています。

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Square Roots Japan
人や地球に優しい仕組みで、都市に365日「新鮮で高品質な野菜」が届く拠点をつくります。テクノロジーと匠の技を融合し、日本の「おいしい」を次世代、世界へ。農業の常識を更新し、持続可能な食の未来を創る企業です。