第6話「1人アカデミー賞」
映画監督を夢見ていた友達の付き合いで、
頻繁に映画を観るようになったのは大学生の頃。
最初のうちは、ただ鑑賞しているだけだったのに
いつの間にか僕は友達と話したことや
印象に残ったシーンやセリフ、監督や俳優のプロフィールを
ノートに書き留めるようになっていた。
気に入った作品には星印をつけ、
ときおり偉そうなコメントを書いて
評論家を気取っていることもある。
自分しか読まないものだから
大目に見てもらおう。
最近はサブスクで映画を観る機会も多いが
映画館で鑑賞するのはやっぱり違う。
余計なものに一切気をとらわれず
真っ暗な部屋のなかで、画面とだけ対峙する時間。
圧倒的な没入感があって、感情が揺さぶられる。
良い作品と出合った新鮮な気持ちを
そのままに留めておきたい。
だから「映画を観るのは一回だけ」と決めている。
その代わりにすべての記憶を
ポケットのなかの半券とともに
この小さなノートブックに大切にしまっておく。
決まった時期にノートブックを読み返して
自分勝手なアカデミー賞を開催。
オスカー像を手渡している姿を
妄想しているのはここだけの話。
テキスト:猪飼尚司
イラストレーション:宮崎知恵(STOMACHACHE.)
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