エレーヌの日日
プリーツ プリーズのある日常
第2回 家で過ごす日

彼女はエレーヌ・ケルマシュテール。
春のとある週末、彼女は家にいる。
「週末は現代美術の展覧会に限らず、ギャラリーや美術館に出かけることが多いです。でもそれだけではなく、いろいろな発見を楽しんでいます。東京や日本のあちこちをできるかぎり訪ねたい。先週は展覧会のオープニングのために京都に行きました。友人と会ったり、パフォーマンスやコンサートに行ったり。そして毎週末、日本語を勉強する時間をつくっています」
担当している展覧会の準備が佳境になれば、家でカタログのための原稿を書いたり、校正作業をしたりすることもしばしばだ。
でも、その日は外出の予定がある夕方まで、ひとりの時間を楽しむことにした。
エレーヌは閑静な住宅街にある2階建ての木造家屋に住んでいる。
1970年頃に建てられたこの家の1階にはリビング、キッチンと和室があり、天井の高い玄関ホールから階段を上ると2階に4部屋がある。おなじ造りの隣家と共同の庭があり、窓を開けると気持ちのよい風が入ってくる。
「春になって、いっせいに花が咲きはじめました。小さな不動産屋の窓に張られている広告で庭の写真を見て、この家に惹かれたのです。代官山のデザインマンションも見たけれど、障子と畳のあるこの伝統的な日本家屋を選びました。冬はとても寒いけど、この家が大好き!布団を敷いて寝ています」
残念ながら、この家は遠くない将来に壊されてマンションになるらしい。
10分ほど歩いてにぎやかな通りに出て、小さな書店に併設されているカフェでお茶を飲んだり、レストランで軽い食事をしたり、足をのばして昔ながらの商店街で花や果物を買って帰ったり。エレーヌはこの界隈を気に入っている。草間彌生美術館はすぐ近所だし、若手の作家をあつかう小規模なギャラリーにも歩いていける。

この日はいつもどおり7時7分に起き、1階に降りた。
キッチンで大きなティーポットにたっぷり、お茶を入れる。
家でもプリーツ プリーズを着る。もちろん、これまで手に入れてきたプリーツ プリーズも。
その日は、PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE BASICSのチュニックとロングカーディガンを選んだ。グレーの濃淡を組み合わせ、NEW COLORFUL BASICSの明るいベージュのパンツ。そしてお気に入りの横尾忠則プリントのコットンストール。
「今読んでいるのは、調香師、マチルド・ローランの香水と嗅覚についてのエッセイです。つい最近、日本語版も出版されましたよ。いつもは、寝る前に本を読みます。一日中おもに英語で仕事をしているので、読書の時だけが母国語の時間。だから楽しみですし、ほっとします」

彼女が着ているプリーツ プリーズ。座っているグレーベージュのソファ。ポップな柄のクッション。壁にかかっているカラフルな額装の荒木経惟のスナップ写真作品。すべてが調和し響きあい、いきいきとしている。
「服は、その人を映し出す鏡のようなもの。気分さえも映し出す。だからこそ、服は心地のよさだけではなく、着る人の人間性にとっても快適であるべきだと思う」
そう語るエレーヌは、家にいるときでもアクセサリーをつける。装うことを楽しんでいる。
床の間に飾られているサビーヌ・ピガールの作品は、当時12歳だったエレーヌの娘の写真と、16世紀フランスの宮廷画家ジャン・クルーエが描いたマルグリット・ド・フランスの肖像画をコンピュータで合成して作られたもの。2014年にエレーヌがキュレーションを手がけた東京でのピガールの個展「時のかさなり」で展示された作品シリーズのひとつだ。
NEW COLORFUL BASICSの赤いロングドレスに着替える。同じデザインのBASICSのグレー、NEW
COLORFUL BASICSの赤いカーディガンを重ねる。バッグとフラットシューズはそのグレーに合わせて。大胆な色使いの大ぶりなビーズのネックレスをつけて、エレーヌはコンサートに出かけていった。
着るひと:エレーヌ・ケルマシュテール
(スタイリングも本人による。プリントのプリーツアイテム、アクセサリー、バッグなどの小物はすべて私物)
撮影:原田教正
ヘア&メイクアップ:不破裕幸
構成:原田環+中山真理|カワイイファクトリー
コンセプト&ディレクション:北村みどり