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TYPE-Ⅰ MM project

TYPE-Ⅰ MM project

“一本の弦、一本の糸”

ジャカード織機の針の音。鳥のさえずり。アウフタクト。
指揮棒が揺れ、美しいワルツが響き始める。
井上道義氏とそのもとに集まった弦楽者たちが奏でるのは、
武満徹の《3つの映画音楽》から「ワルツ〜『他人の顔』より」。
ゆったりとした三拍子と優しい旋律に、自然のテクスチャと田園風景が重なり、
やがて稲と籾殻、炭から黒い糸へとつながっていく。

インターミッション。お囃子の笛、あるいは拍子木のような音色。
井上氏は全身で踊るように指揮をとり、オーケストラの呼吸はひとつになる。
伊福部昭の《日本狂詩曲》より第2楽章『祭』という
豊かな祝祭の曲にオーバーラップするのは、生地から始まる服づくりのプロセスだ。
いくつもの人の手が動き、形をつくり、フィットを整える。
そして迫力のフィナーレへ。

指揮者の井上道義氏とA-POC ABLE ISSEY MIYAKEとによるプロジェクトは、
こうして命を吹き込まれ、あるいは大きな問いを投げかける。
例えば、クラシックはいかにして継承すべきなのか。
ユニフォームはどこまで自由になれるのか。
美しさと心地よさのバランス。
確かなことは、アンサンブルが一本の弦の震えから始まるように、
一本の糸から衣服は生まれるということ。
そして美しい音楽を奏でる指揮者とオーケストラのように、
衣服をつくることができるということだ。

TYPE-Ⅰ MM project
TYPE-Ⅰ MM project

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEより、新しいプロジェクトをご紹介します。指揮者の井上道義氏との協業による「TYPE-Ⅰ MM project」です。「TYPE-Ⅰ」は、ソニーグループが開発した米の籾殻を原料とするTriporous™を、糸に練り込んだ衣服を展開するプロジェクト。従来の染色では実現しえなかった「特別な黒」という可能性を追求してきました。

そして今回、長年にわたり世界的に活躍されてきた井上氏との取り組みにより、その可能性をさらに拡張しています。指揮者や演奏家の身体を心地よく包み、正装としての端正さをもち、さらに着る楽しさも宿すような服とは何か。クラシック音楽を演奏によって更新し続けるように、衣服もまた更新し続けるために何をすべきか。言い換えれば、衣服と音楽と人の新しいアンサンブルを奏でるような試みであったかもしれません。Triporous™を練り込んだ特別な黒の生地は、“Steam Stretch”技法によるプリーツが加わることで、動作はさらに自由に、着心地はさらに軽やかになりました。スタンドカラージャケットやパンツ、ワンピースには、五線譜のようなモノトーンのストライプの多彩なバリエーションが拡がります。

TYPE-Ⅰ MM project
TYPE-Ⅰ MM project

つまり「TYPE-Ⅰ MM project」は音楽とともにあるコレクションです。プロジェクトのプロセスを追った一編のドキュメンタリー映像は、映像監督の山中有氏の撮影・編集によるもの。井上氏のもとに集まった演奏家たちによる音楽が響きます。曲は武満徹の《3つの映画音楽》より「ワルツ〜『他人の顔』より」と、伊福部昭の《日本狂詩曲》より第2楽章『祭』。タクトを振り、弦を弾き、リードに息を吹き込み、マレットを跳ね上げる。その動作のひとつずつが、新たな服との対話のようにも見えてくる。そして、オーバーラップする水や畑や籾殻、織機や針や人の手の動きもまた、美しい旋律や響きのなかに織り上げられていきます。

服づくりもまた自然と人と技術のアンサンブル。そしてA-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、それを「一枚の布」に結実します。「TYPE-Ⅰ MM project」は、音楽と人の豊かな関係のなかから、服づくりに新しい光を当てるコレクションとなりました。

TYPE-Ⅰ MM project
TYPE-Ⅰ MM project

井上道義
1946年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。ニュージーランド国立交響楽団首席客演指揮者、新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督などを歴任し、斬新な企画と豊かな音楽性で一時代を切り開いた。近年では、全国共同制作オペラ「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」、大阪国際フェスティバル「バーンスタイン:ミサ」、「井上道義:A Way from Surrender ~降福からの道~」等を、いずれも総監督として率い既成概念にとらわれない唯一無二の舞台を作り上げている。2018年「大阪府文化賞」「大阪文化祭賞」「音楽クリティック・クラブ賞」、2019年NHK交響楽団より「有馬賞」、2023年「第54回サントリー音楽賞」を受賞。オーケストラ・アンサンブル金沢桂冠指揮者。2024年12月にて指揮活動の引退を公表している。