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Episode 19
2026.10.21

宇宙から地球へ、地球から衣服へ

安部眞史(JAXA 第一宇宙技術部門衛星システム開発ユニット 主任研究開発員)

Episode 19

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とのプロジェクト「TYPE-XVII JAXA project」を発表しました。JAXAの気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)が捉えた地球の姿を、独自のジャカード織りの技術によって一枚の布へと織り込み、ジーンズとして形にしています。身体と衣服の関係を探求すること。宇宙から地球を捉えること。異なるスケールにあるふたつの視点が交わることで、ものづくりにどのような可能性がひらかれるのか。プロジェクトの過程をたどりながら、その先にある未来を語ります。

科学技術とデザイン。そのあいだに生まれるもの

——A-POC ABLEとJAXAが協業するきっかけは、安部さんからA-POC ABLEチームへのプレゼンテーションでした。まずは、安部さんが取り組んでいる人工衛星による地球観測について、当時どのようなことを考えていたのか、聞かせていただけますか。

安部眞史(以下、安部) 私は大学院で電気工学を専攻したあと、2009年にJAXAへ入構し、以来、地球観測に関する研究開発に携わってきました。人工衛星の開発や、その観測データを人々の暮らしに役立てるための取り組みを進めるなかで感じていたのが、有人宇宙活動や月・惑星探査、ロケット開発などに比べ、地球観測という領域は、一般にはまだ十分に知られていないのではないかということです。また、その活動を社会に伝える方法についても、従来の枠組みにとどまらず、もう少し異なるアプローチが必要なのではないかという課題意識を持っていました。

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取材には、JAXAの安部眞史氏(右から4番目)に加え、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEから、右よりエンジニアリングチームのアマンディーヌ・マルテル、岡本将宗、星野貴洋、デザイナーの宮前義之、エンジニアリングチームの高橋奈々恵、五十嵐凌太、中谷 学が参加した。

たとえば、今回のプロジェクトで観測データを使用した気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)(以下、「しきさい」)は、宇宙から地球の気候変動を観測することを目的とした人工衛星です。人の目には見えない波長を含む光を捉える光学センサによって大気中の小さな粒子であるエアロゾルや雲、陸域・海域の植生、海面水温、雪氷など、地球の気候形成に関わるさまざまな物理量を観測しています。

こうしたデータを長期的に蓄積することで、気候変動のメカニズムの理解を深めるとともに、地球温暖化を含む将来の気候変動予測精度の向上につなげていきます。

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2026年8月の1か月間における、世界各地の平均海面水温。海面水温は、台風やハリケーン、エルニーニョ現象などの発生に関わり、気象や気候に大きな影響を与える。異常気象や気候変動の兆候を捉えるうえでも、重要な観測データのひとつ。@JAXA

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2026年8月の1か月間における、世界各地の葉面積指数。葉面積指数は、一定の土地面積に対して、植物の葉がどれぐらい茂っているかを示す指標。植物による光合成の活発さや植生の状態を地球規模で捉えるための重要なデータとして活用されている。@JAXA

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「しきさい」が捉えた、白く映る富士山(中央)の画像(左)と、バレンツ海の画像(右)。©JAXA

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「しきさい」が捉えた、黒海。 海の渦の正体は、植物プランクトンの濃度。 植物プランクトンは日光や水中の栄養分で増殖し、一定の時間が経つとその数は増加し、海の様相を変える。 ©JAXA

これに対して、これまでJAXAを含め世の中の環境啓蒙活動は、「砂漠化が進んでいる」といった、危機感を喚起する伝え方が多かったように思います。ただ近年、そうしたコミュニケーションに対して、受け手の側にも少し疲れが生じているのではないかと感じていました。

では、地球環境の問題を、どうすればもっと身近に、自分自身に関わるものとして捉えてもらえるのか。そう考えるなかで着目したのが、世界中に広がる産業であり、同時に誰にとっても身近な存在である「衣服」でした。衣服との協業を通じて、これまでとは異なるかたちで地球環境について伝えることができないだろうか。そんなことを考えていた折に、宮前さんとお話しする機会をいただきました。

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JAXA第一宇宙技術部門で研究開発に取り組む安部眞史氏(左)。地球観測や技術実証衛星の研究に従事する。「しきさい」による観測画像(右)。

宮前義之(以下、宮前) ある取材でJAXAを訪れた際、取材後に安部さんがぶ厚い資料とともにプレゼンテーションをしてくださり、とても刺激を受けました。

安部さんは普段からイッセイ ミヤケの服を着てくださっていて、私たちのものづくりや考え方も深く理解したうえで、協業を持ちかけてくださいました。私たちにとって、異なる分野の人たちと関わることはとても重要です。JAXAさんとの出会いもまた、自分たちだけでは得られない視点をもたらし、新たなインスピレーションにつながるものだと感じました。

プロジェクトはまず、JAXAさんが現在どのような活動に取り組み、その先にどのような未来を見据えているのかを知りたいという思いから始まりました。そこで、イッセイ ミヤケのさまざまなセクションのメンバーを連れて、筑波宇宙センターにお伺いするところから始まりましたね。

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筑波宇宙センターの展示館を見学するイッセイ ミヤケチーム。

安部 40人もの方々に来ていただいたので、施設の担当者も驚いていました(笑)。みなさんには、人工衛星を宇宙に打ち上げる前に、その性能を確認するためのさまざまな環境試験設備を見学してもらいました。

たとえば、真空空間や擬似太陽光など、過酷な宇宙空間に似た環境を再現する「スペースチャンバ」や、ロケットや宇宙機に搭載されるアンテナや搭載機器の電波特性を解析するための「電波試験設備」など。みなさんが一つひとつの設備を興味深く見てくださっていたことが、とてもうれしかったですね。

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筑波宇宙センターの展示館「スペースドーム」には、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の実物大モデル(左)や、船外宇宙服のレプリカ(右)が展示されている。

五十嵐凌太 私自身は個人的に以前にも一度、筑波宇宙センターに伺ったことがありました。ただ今回は、安部さんをはじめ研究者のみなさんのお話を伺いながら見学することができたので、より理解が深まったように思います。展示館には船外宇宙服も展示されていて、縫製が一見粗く見える部分があったり、縫うというよりも紐で編むように構成されている箇所があったり。地上の衣服とは異なる条件や発想でつくられていることが垣間見えました。とても勉強になりました。

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展示館には、「だいち2号」(ALOS-2)の模型も。観測データは災害状況の把握、森林分布の把握や地殻変動の解析などに使われる。

アマンディーヌ・マルテル 私が感じたのは「新しい環境に向かうには、その環境に応じた道具を自らつくる必要がある」ということです。私たちチームもまた、新しい衣服をつくるために、日々技術を磨き、まだ見ぬ生地をつくりたいと考えています。

それはJAXAの研究者やエンジニアのみなさんも同じで、過酷な宇宙環境へ向かうために新たな技術を開発し、試験設備を整え、部品の一つひとつにまで試行錯誤を重ねている。目指すものは異なっていても、未知の環境に向き合い、そのために必要なものを自らつくり出していく。その姿勢には、衣服づくりと通じるものがあると感じ、とても興味深く思いました。

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通常は一般の人が自由に立ち入ることのできない制限区域も見学。ロケット打上げ時の環境を再現する「旋回腕型加速度試験設備」。

岡本将宗(以下、岡本) 人工衛星は、ロケットに搭載して地上から宇宙へ運ぶ際、太陽電池パネルをコンパクトに折り畳んだ状態にしています。その展開構造のなかには、「ミウラ折り」と呼ばれる折りの考え方が応用されているものもありました。

私たちも普段から、ミウラ折りの構造をデザインや機能として捉え、衣服に取り入れてきました。一方でJAXAのみなさんは、限られた空間のなかで効率よくミッションを遂行するという目的を突き詰めた結果、必然的にそうした形へとたどり着いている。私たちが美しさや心地よさを求めながら探っている形と、宇宙開発の現場で機能を追求した先に生まれる形が、思いがけず重なっている。そのギャップと共通点が、とてもおもしろいと感じました。

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宇宙空間の真空や温度低温環境を再現する「6mφ放射計スペースチャンバ」。

宮前 私自身、施設の奥まで見学したのは今回が初めてで、以前からずっと見てみたいと思っていました。実際に目にすると本当にスケールが大きく、普段、人間の身体を基準にものを考えている私たちには、実感が追いつかないほどでした。

その大きなスケールのなかでJAXAのみなさんがつくっているものには、いま果たすべきミッションに向けて、機能を無駄なく突き詰めた先に生まれるデザインがありました。自然界の造形にも通じるような、必然から生まれる美しさがあると感じます。

一方で、そこに人間の暮らしに根ざした体験や実感、あるいはまったく異なる領域のものがつながったとき、何が生まれるのか。これから必要とされるデザインのあり方についても、思いを巡らせる時間になったように思います。

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壁一面をトゲ状の電波吸収体で覆った「電波第2試験設備」。ここで宇宙機やロケットに搭載する機器のアンテナの電波特性を確認する。

南極の景色を、一枚の布へ

——施設見学を経て、プロジェクトはどのように進んだのでしょうか。

宮前 見学当日、A-POC ABLEチームはそのまま筑波に泊まり、夜もみんなで議論を続けていました。そのなかで出てきたのが、「ジーンズをつくってはどうか」というアイデアです。

JAXAのみなさんの現場を実際に見て、改めて安部さんの「地球環境をもっと身近に感じてもらいたい」という思いを聞いたとき、それを形にするなら、できるだけ日常に近いプロダクトがいいのではないかと思ったんです。ジーンズなら、これまでイッセイ ミヤケのプロダクトに触れたことのない方にも、この取り組みを知ってもらうきっかけになるかもしれない。そんな話を安部さんともしましたね。

安部 はい。翌日、もう一度JAXAに来ていただいて、「しきさい」が捉えた観測画像をジーンズに織り込みたい、というお話をいただきました。そこで、世界各地のサンゴ礁や山脈、フィヨルドなど、「しきさい」が捉えたさまざまな画像をご紹介しました。自然がつくり出す地形や色彩が印象的なものをいろいろ見ていただくなかで、最終的に選ばれたのが「南極大陸」でした。

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「しきさい」で捉えた南極大陸の観測画像データ。

南極の大部分は、長い年月をかけて形成された、平均約2kmもの厚さの氷床に覆われています。氷床や海氷の変化は、海面水位や海洋循環とも深く関わっているため、地球環境の変化を捉えるうえでも、とても重要な観測対象です。

一方で、広大な雪原や氷床に走る亀裂、ブリザードなど、ほかの地域ではなかなか見られない自然の表情があります。そこには地球そのものの雄大さや迫力があり、同時に、自然に対する畏怖のような感覚も呼び起こされる。環境の変化を伝えるという意味でも、造形としての強さという意味でも、今回のプロジェクトにふさわしいモチーフだと思いました。

高橋奈々恵 方向性が決まると、すぐに試作を始めました。最初は、観測画像を色の組み合わせだけで表現したサンプルをつくったのですが、どうしても白が沈んでしまって、画像が持つ鮮やかさが出せなかったんです。氷床の凹凸や奥行きも、十分には表現できませんでした。

そこから試行錯誤を重ねて、今回のジーンズは「ジャカード織り」でつくることになりました。ジャカード織りは、タテ糸の動きを一本ずつ制御し、ヨコ糸との組み合わせによって、複雑な柄や織りの構造をつくる技術です。色だけでなく、糸の重なり方や織りの密度まで設計できるので、生地そのものに濃淡や凹凸、立体的な表情をつくることができます。また、今回のジーンズは、イッセイ ミヤケのアーカイブにある既存のパターンを使ったものではなく、新しくパターンを引いています。

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ジャカード織りで制作された、実際のジーンズに使用する生地サンプル。

安部 私からは皆さんに、数十枚の南極観測画像をお渡ししました。南極ならではの環境・造形が表現されており、衛星観測の視点だからこそと思える画像を選びました。そこから皆さんに画像を選び、さらにジーンズ上の配置を決めていただきました。サンプルができるまでどの画像のどの部分が使われるのか、楽しみに待っていました。画像と配置の組み合わせは無数にあると思うのですが、どのように絞り込んでいったのでしょうか。

高橋 画像そのものは比較的直感的に選べたのですが、そこからどの部分を切り取るかは、かなり、何パターンも試しました。さらに、切り取った画像をどのパーツに配置するか、前から見たとき、後ろから見たとき、横から見たときにどう見えるかを確認しながら、一つずつ当てはめていきました。ある程度試していくと、チームの判断は自然と一致していきますね。

安部 製造を担われている織物工場の方に、お話を伺う機会がありました。観測画像と生地のパターンを拡大して見比べながら、元画像の雰囲気を活かすためにはどこに何色の糸を足すか・引くか、糸の太さをどう変えるのかを細かく検討し、南極画像の特徴を一つひとつ、織物を織るためのプログラムに翻訳していく。気の遠くなるような作業の緻密さと、妥協しない職人魂・情熱に感激しました。

そうした工程を経たからこそ、完成したジーンズには、観測画像とはまた異なる迫力が宿ったのだと思います。水を通したあとの生地はふっくらとして、氷床の起伏が美しく浮かび上がる。さらに、糸の太さを部分ごとに変えることで氷の上に積もった雪の表情まで描き出されていました。また、織になることで氷と海の亀裂や重なりといった微細な輪郭が際立ち、普段ディスプレイで見ている以上に南極を感じました。一枚の布を前にして、自然への畏怖を感じる。そんな経験は、私にとって初めてのことでした。衛星観測、高度な衣服のデザインと生地作り、これらを全て一つの国でやり通せる所は、世界でも稀ではないでしょうか。日本語という共通言語に加え、美意識や自然に対する敬意といった根幹を共有できていたからこそ、これだけの物が作れたのではないかと思っています。

中谷 学 三宅(一生)はよく「ジーンズやTシャツに代わるものを作りなさい」と言いました。誰もが日常的に身につけるものにこそ、普遍的なデザインが宿っている、と。

ジーンズと聞いて、まず思い浮かべるのは深いインディゴブルーではないでしょうか。この青は、古くから世界各地で染料として用いられてきたインディゴによるものです。19世紀後半には、丈夫さを求められる労働者のための衣服として広まりました。そこから時代や社会の変化とともに、ジーンズは世界中で日常的に着られる衣服になっていきました。

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南極に現れた造形を織組織の密度による濃淡と階調で描き出し、ジーンズならではの質感と表情を生み出している。

つまり、一着のジーンズの歴史をたどるだけでも、その背景には産業や労働、社会の変化を見ることができるんです。一方で現代に目を向けると、たとえば独特の色落ちやグラデーションを生み出す「ダメージ加工」では、軽石などとともに繰り返し洗い、生地を摩耗させる工程があります。そこでは、水やエネルギーといった資源も使われる。そう考えると、ジーンズは単なる日常着ではなく、人間の営みと地球環境との関係まで映し出す衣服でもあると思うんです。ジーンズには、着られてきた時間や環境が記憶として刻まれていく。そのあり方と、「しきさい」が地球の記憶を記録することに、共通するものを感じました。

こうしたジーンズが包含する物語と、南極の姿を捉えながら、地球の記憶を記録する「しきさい」の営みは、どこか通じ合うものがあると感じています。私自身、「いつかA-POC ABLEでジーンズをつくりたい」という思いを長く抱いてきました。それが今回、このようなかたちで実現したことも含めて、とても思い入れの深いプロジェクトになりました。

異なる視点が、ものづくりをひらく

——今回のプロジェクトが進む過程では、東京都立小石川中等教育学校でのワークショップも実施しました。

宮前 JAXAのみなさんは、常に宇宙や地球という大きなスケールを扱っているからこそ、自分たちの活動についても、非常に長いタイムスパンで捉えているように感じました。その姿勢に触れるなかで、自然と「これからの子どもたちが、どのような未来を生きていくのか」という話にも広がっていきました。

イッセイ ミヤケとしても、これからの子どもたちに、私たちのものづくりへ興味を持ってもらいたいという思いがある。そんな話を交わしているなかで、子どもたちと一緒に考えるワークショップという構想が生まれました。

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東京都立小石川中等教育学校でのワークショップの様子。

安部 JAXAとしても、子どもたちに地球観測や地球科学の魅力を、もっと身近に感じてもらいたいという思いがありました。そこで、ご縁のあった東京都立小石川中等教育学校とやりとりを重ね、「科学×デザイン」をテーマに掲げたワークショップを実施することになりました。全体で2時間弱のプログラムで、前半は私と宮前さんから、それぞれJAXAの地球観測とA-POC ABLEさんのものづくりについて紹介しました。その後、A-POC ABLEさんの布を使って、生徒たち自身に作品コンセプトを考えたうえで制作してもらい、最後に参加した14名全員にコンセプトと作品を発表してもらいました。限られた時間のなかでも、それぞれが自分ならではの視点を見つけ、それをきちんとかたちにしていたことに感銘を受けました。また、ワークショップ前の待ち時間に宮前さんが人形模型にささっと布を巻いて、あっと言う間に服を仕立てており流石だなと思ったのですが、ご本人がぽつりと「こうやってすぐ服にしてしまうから面白くない」と自問されている姿も印象的でした。

宮前 普段、服づくりに触れていないからこそ生まれていた発想が、たくさんありましたね。こちらが思いもよらない布の扱い方やかたちのつくり方が次々と出てきました。そうした固定概念にとらわれない発想に触れることで、むしろ自分自身が、服づくりにまつわる「当たり前」にどれだけとらわれていたかに気づかされる時間でもありました。

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学生による作品制作では、A-POC ABLEが新たに開発した布のサンプルと小型のトルソーを用い、「南極から発想した衣服」をテーマに、一人ひとりがコンセプトとデザインを考えた。

岡本 ワークショップ中、A-POC ABLEチームは若手3人で生徒のみなさんの制作を見てまわりました。布を切ったり結んだりするなかで、「ここはどうしたらいいですか」と相談を受け、それぞれにアドバイスをしたのですが、その言葉を取り入れながらも、最終的にはこちらの想像を超えるかたちへと発展させていくんです。制作が進むにつれて、用意していた生地が足りなくなるほどアイデアが広がり、最後には事前に私たちが作った見本に着せていた布まで外して使ってもらいました。それくらい、生徒のみなさんの発想が次々と膨らんでいったのが興味深かったです。

星野貴洋 オリジナル作品をつくりたいという気持ちが非常に強く、他の生徒の作品を見ながら、「自分はもっとこうしたい」と考え、さらに手を動かしている姿も印象的でした。私自身、子どもたちとのワークショップを通して得た気づきや発想が、そのまま普段の服づくりへと返っていくような感覚がありました。こちらが何かを伝えるだけではなく、彼らの自由な発想から私たちも刺激を受け、それがまた次のものづくりにつながっていく。こうした行き来がこれからも生まれていくと、これまでとは違う衣服づくりの可能性につながるかもしれない。そんな期待も感じています。

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学生たちが完成させた作品が一堂に並ぶ。

——このプロジェクトは今後も継続されていきます。最後に、これからの展望を聞かせてください。

安部 地球環境は、気候変動をはじめとする大きな課題も抱えています。ただ、その切実さや切迫感を伝えるだけでなく、まずは地球の美しさや自然への畏怖といった感性の部分から関心を持っていただくきっかけを、これからもつくっていきたい。

そのうえで、今回のプロジェクトを通して、組織としてA-POC ABLEさんから学べることもたくさんあると、あらためて感じました。A-POC ABLEさんはさまざまな分野と協業されていますが、互いの理念や考え方まで共有しながら、最終的なプロダクトへと落とし込まれている。JAXAのなかでも、私が所属する第一宇宙技術部門では、今後ますます、異なる分野との本質的な連携が求められていくと感じています。今回の協業をひとつのきっかけとして、こうした交流がJAXA全体へと広がっていけば、これまでにはない発想や活動にもつながっていくのではないかと思っています。

岡本 私自身、JAXAさんとのプロジェクトを通して、地球上で衣服をつくっているだけでは意識することのない、さまざまな条件に気づかされました。たとえば宇宙では、水が非常に貴重な資源であり、限られた資源をどう活用するかが問われます。また、ロケットに搭載するものには、できるだけ小さく、軽くすることも求められる。

私たちが普段、イッセイ ミヤケで生地を考えるときには、たとえば「シワになりにくい」「洗いやすい」といったことを機能として捉えています。では、舞台が宇宙になったとき、衣服や生地にはどのような機能が必要になるのか。これまでとは異なる制約に出会うことで、むしろ発想がひらかれていくような感覚がありました。そうした未知の条件から考えることが、未来のものづくりへとつながっていく。このプロジェクトには、そんな可能性を感じています。

Episode 19

宮前 安部さんが日々向き合っている「宇宙から地球を見る」という視点は、私たちがどのような環境や歴史、物語の上に立っているのかを、あらためて自覚させてくれるものだと思っています。同時に、自分たちが当たり前だと思ったことも、視点を変えれば、必ずしもそうではないかもしれない。そう気づくことで、ものの見方や発想も変わっていきます。

衣服におけるサステナビリティも、そのひとつです。ファッションの世界では、たとえば素材が石油由来か植物由来かといった議論がなされますが、服づくりには素材だけでなく、製造から流通、着用、その先まで、さまざまなプロセスがあります。一つの側面だけでは捉えきれない問題だからこそ、何を、どのように伝えていくのかも重要だと感じています。

私たちがものづくりをしていておもしろいと感じるのは、衣服が身体にもっとも近いプロダクトのひとつだということです。今回のジーンズに、JAXAの活動や南極の環境についての物語を重ね、それを身につける人へ手渡していく。この物語に共感してくださった方が、朝、ジーンズを穿くたびにふと南極のことを思い出す。その小さな意識の変化が、いつか何かの行動につながるかもしれません。

世の中に対する問いを、衣服のかたちで差し出す。それは、イッセイ ミヤケらしいメッセージのあり方でもあると思っています。この美しい地球を、これから先、どのようなかたちでつないでいけるのか。私たちは服づくりという立場からその問いに向き合い、これからも探究を続けていきたいと思います。

Episode 19

安部眞史 | Abe Masashi
JAXA 第一宇宙技術部門衛星システム開発ユニット 主任研究開発員
東京理科大学大学院にて電気工学を修了し、2009年JAXAに入構。以来、一貫して地球観測事業に従事する。自身初の衛星開発となったGOSAT-2衛星プロジェクトでは主に電気システム、品質保証を担当し、打上げ時は衛星管制指揮者を務める。1年間の内閣府出向を経て、現在は新たな地球観測ミッションの研究に取り組む。また、地球科学や地球観測事業の広報活動にも携わっている。